バラガンは最初依頼を断った。なにせバラガンがいままで手がけてきた作品は、ランドスケーピングを基本としてきたが、ヒラルディー邸は敷地がたったの10m×35mだったからだ。

しかしヒラルディー氏はあきらめなかった。設計を依頼してから3年も、毎週土曜日の朝8時にバラガンを訪ね朝食を共にした。その甲斐ありなんとか引き受けてもらうことになったが、最初の図面は紙ナプキンにざっと描いたものだった。しかも工事は造っては壊しの繰り返しで初めはこの鮮やかな色も塗られて無かった。

しかし出来上がった空間はまさに圧巻である。素晴らしい色彩、光、水がおりなすハーモニーはぐっと息を呑む空間である。キッチンからダイニングルームまで10mほどの廊下を歩いていかなければならないのだが、普通では考えられないプランだがこの廊下が曲者で、規則正しく配置された窓、このガラスにはバラガンがイエローのペイントを一見無造作に施してあるように見えるが光を通してなんとも良い加減に黄色い光と変化させている。 この廊下は奥に存在する異次元の空間、水と光と色彩のダイニングへ導く為のアプローチなのである。

ダイニングルームにプール?と驚きの空間だが、ここはまさに異空間だ、ハイサイドライトより一筋の日が荒い仕上げの壁を照らし水の中へと消えていく。すべて計算ずくである。ここでも見返しの壁には黄色が塗られていて差し込む光を黄色く変えている。
Gilardi House ;